夏の風物詩として、私たちの目を楽しませてくれる花火大会。しかし、天候不良などで急遽中止になってしまうことも少なくありません。そんな時、出番を失った大量の花火や、集められた協賛金がどうなるのか、疑問に思ったことはありませんか。
本記事では、意外と知られていない花火大会の裏側から、全国を飛び回る花火業者の実態、そして夜空をキャンバスにする職人たちの深いこだわりまで、花火の奥深い世界をご案内します。
花火大会が中止に。行き場を失った花火はどうなる?
丹精込めて作られた花火が、大会の中止によって無駄に破棄されてしまうのではないか。そう心配される方もいらっしゃるかもしれません。
実は、花火は湿気にさえ十分に注意すれば、長期間の保存が可能なのです。そのため、万が一大会が完全に中止となってしまった場合でも、担当する花火業者が専用の火薬庫へと持ち帰り、大切に保管します。
持ち帰られた花火は、来年の同じ大会で使用されたり、その業者が担当する別の地域のイベントで打ち上げられたりと、しっかりと再利用されます。状態によっては一度分解して作り直すこともあるなど、決してそのまま捨てられてしまうわけではないのでご安心ください。
協賛金やチケット代が返金されない理由
花火大会を支える企業や個人の「協賛金」。大会が中止になった際、これらが原則として返金されないケースが多いのには、明確な理由があります。
それは、大会当日を迎えるまでに、事前の準備としてすでにお金が使われているからです。具体的には、以下のような費用が発生しています。
- 警備・安全対策費:数ヶ月前からの計画策定や、当日の人員確保にかかる費用。
- 会場の設営費:フェンスやテント、仮設トイレなどのレンタルおよび設営費用。
- 制作・広報費:ポスターやチラシのデザイン、パンフレットの印刷費用など。
- 花火の制作・運搬費:花火そのものの制作と、安全に運搬するための費用。
中止が決定した時点ですでにこれらの支払い義務が生じているため、主催者の手元には返金できる資金が残っていません。そのため、協賛を募る段階で「荒天中止の場合も返金はしない」という規約が設けられているのが一般的です。
複数の大会を掛け持ちする花火業者の仕組み
「余った花火を別の地域のイベントに回す」と聞くと、花火協会のような連合組織が全国の花火を管理し、再分配しているようなイメージを抱くかもしれません。
しかし実際は、各大会の主催者(自治体や実行委員会など)が、民間の花火業者(煙火店)へ直接発注する仕組みになっています。実力のある花火業者は、夏の間は毎週末のように異なる地域の大会に赴き、引っ張りだこで花火を打ち上げています。
つまり、ある大会が中止になって花火が余った場合、それを自分たちの在庫として持ち帰り、同じ業者が担当している別の大会で使用する、というのが通常の流れなのです。全国規模の非常に大きな大会では、複数の花火業者がプログラムごとに分担して打ち上げを担当し、中止の際もそれぞれが自社の花火を持ち帰って管理しています。
夜空を彩る「色」と「形」。煙火店ごとの個性と魅力
花火の光る火薬の粒は「星」と呼ばれ、その配合はどの業者にとっても門外不出の企業秘密です。
同じ「青色」であっても、パステル調の鮮やかなブルーを得意とする会社もあれば、深みのある群青色にこだわる会社もあり、クリエイターごとの得意なカラーパレットが存在します。また、日本の花火は球体の中にミリ単位の精度で星を同心円状に並べており、開いたときの美しい真円や複雑な模様(芯)に、職人の高い技術が表れます。
さらに、音楽に合わせて連発する「スターマイン」は、もはや夜空を使った空間デザインです。0.01秒単位で音楽とシンクロさせるプログラミング技術や間の取り方には、業者ごとの演出の個性が色濃く反映されます。
全国には、野村花火工業(茨城県)の緻密な光のイルミネーション、マルゴー(山梨県)の鮮やかな時差式発光、紅屋青木煙火店(長野県)のドラマチックな演出など、確固たる個性を持った有名な煙火店が数多く存在します。彼らの生み出す唯一無二の花火を目当てに、遠方から足を運ぶ熱狂的なファンも少なくありません。
次に花火大会を訪れる際は、ぜひ「どの業者が打ち上げているのか」にも注目してみてください。夜空に咲く大輪の花が、より一層味わい深く感じられるはずです。