洗練された1960年代のファッション、軽快なジャズの調べ、そして主人公の華麗なる逃亡劇。映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』は、多くの人々を魅了してやまない名作です。本作は「実話を基にした」という触れ込みで広く知られていますが、近年の調査により、物語のどこまでが真実で、どこからがフィクションなのかが徐々に明らかになってきました。
華やかなロマンスの裏に隠された事実
映画の中では、主人公フランクが医師やパイロットに扮し、美しい女性たちと恋に落ちる姿が描かれています。「騙された彼女たちは、後に彼を訴えなかったのだろうか」と疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし、個人的に彼を訴えた女性の記録は確認されていません。なぜなら、映画で描かれたようなドラマチックなロマンスの多くは、彼自身の創作(あるいは誇張)であった可能性が高いと考えられているからです。
実際の彼の足跡を辿ると、映画のような大がかりな詐欺よりも、知人や家族への小規模な窃盗などが主だったと言われています。
| 映画における設定 | 現実の記録とされていること |
|---|---|
| 世界中を飛び回る華麗な逃亡劇 | 10代の多くを刑務所や更生施設で過ごす |
| 医師やパイロットとしての活躍 | ほとんどが本人の証言のみで裏付けが乏しい |
| 騙された女性たちとのロマンス | ロマンチックな関係よりもストーカー的な行動の記録 |
つまり、彼が行った最も巧妙な「詐欺」とは、自分自身の小規模な犯罪歴を魅力的なストーリーに仕立て上げ、世界中の人々を楽しませるエンターテインメントに昇華させたことなのかもしれません。
FBIとの関わりと、ビジネスの成功の真相
映画のラストで描かれるFBIとの協力関係についても、興味深い背景があります。
州をまたぐ犯罪とFBIの管轄
彼がFBIに追われることになったのは、決して「国家を揺るがす大悪党だったから」というわけではないようです。アメリカでは警察の管轄が州ごとに分かれており、たとえ少額の小切手偽造であっても、州境を越えて逃亡を繰り返すことで、自然と連邦捜査局(FBI)の管轄に切り替わります。
映画に登場するような、一人のベテラン捜査官が人生を懸けて追い続けるといった劇的な展開は、物語を盛り上げるための魅力的な脚色だと言えそうです。
詐欺対策ビジネスという新たなステージ
FBIに「就職」したという記録は見当たりませんが、彼が刑務所を出た後に詐欺対策のコンサルティング会社を設立し、ビジネスを軌道に乗せたのは事実とされています。皮肉なことに、「FBIを出し抜いた天才」という彼自身が作り上げた魅力的なストーリーが、企業向けの強力な宣伝文句として機能したようです。
長い日本語タイトルが持つ、スタイリッシュな役割
本作の原題は『Catch Me If You Can』です。これを直訳すると「捕まえられるものなら、捕まえてみな」といった、鬼ごっこで使われるようなフレーズになります。
もしこの直訳をそのまま邦題にしていたら、少しコミカルで軽い印象を与えていたかもしれません。日本の配給会社があえて長い英語の響きをそのままカタカナにした背景には、1960年代を舞台にしたレトロでお洒落な世界観や、洗練された映画の雰囲気を日本の観客にそのまま届けたいという配慮があったと考えられます。
スピルバーグ監督が本作を手掛けた深い理由
軽快なコメディタッチで描かれる本作ですが、メガホンを取ったスティーヴン・スピルバーグ監督ならではの深いテーマが隠されています。
自身の経験と重なる「家族」への想い
スピルバーグ作品には、しばしば「両親の離婚に直面する子供」というテーマが登場します。本作の主人公もまた、愛する両親の離婚という現実に傷つき、家族を再び一つにしたいという純粋な願いから逃避行を始めました。監督自身が少年時代に経験した家族への想いが、主人公の孤独な姿に投影されていると指摘する声も少なくありません。
重厚なSF作品からの解放
当時、『A.I.』や『マイノリティ・リポート』といった重厚でシリアスなSF映画を立て続けに制作していた監督にとって、本作のテンポが良くポップな脚本は、心踊るリフレッシュの機会だったようです。当初はプロデューサーとしてのみ参加する予定でしたが、物語の持つエネルギーに魅了され、自ら監督を買って出たというエピソードも残されています。
真実と虚構が入り混じる物語の背景を知ることで、この魅力的な映画は、また違った輝きを放ち始めるはずです。